構造色の仕組み

 それでは、下層鱗の構造色の仕組みをまとめてみましょう。リッジには柱の両側に棚が規則正しく並んでいます。そこで、とりあえず柱をなくして考えてみましょう。すると棚構造がまるで多層の膜のようになりました。このような多層膜に光が当たると、それぞれの棚で反射した光は互いに干渉しあって、青色の光を強く反射します。一方、棚はリッジに垂直方向には狭く、リッジに沿っては長く伸びていますので、光は回折の効果により、棚に垂直な方向には大きく広がります。一方、棚に平行な方向には広がりません。従って、下の写真のように横に細長い反射パターンが得られるのです。

 しかし、このような反射パターンができるときに、もう一つ考えておかなければならないことがあります。それは、同じ形のリッジが並んでいると回折格子になってしまい、リッジに当たった光同志が干渉し合って、回折スポットを作ってしまうのです。こうなると、せっかく広がった青い光が特定の方向からしか見えなくなります。モルフォチョウは、この問題をリッジの高さを変化させ、非干渉の効果を取り入れることで解決しました。つまり、棚の高さをリッジ毎に変化させることで、リッジを反射した光は互いに干渉しなくなるので、それぞれのリッジに当たった光が単に足しあわされるだけになるのです。こうすることで、干渉により光を強くするという目的は達せられなくなりますが、その分、光を広げて反射させることができるのです。

 この青色の光の帯は翅脈に垂直に広がりますので、蝶が羽ばたくたびに光の帯が放たれることになります。蝶を見ていると、目に光の帯が瞬間だけ通過するので、光の点滅を感じることになります。蝶はまっすぐ飛ぶことができないので、蝶独特の飛び方とこの光の点滅があると、きっと鳥にとっては捕獲しにくい対象になるのではないかと思います。
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