全方位反射スペクトルの測定

 そこで、モルフォチョウの翅にいろいろな方向から光を当て、どの角度に反射されやすいか調べてみました。3次元すべての方向から光を当てて測定をするのは大変なので、リッジに垂直な方向だけに限ることにしました。反射強度の大きい480nmで測定してみた結果がこの図です。実はこの図を見たとき、私は大変びっくりしました。なぜなら、2つのスポットが見えたからです。この図は横軸が入射角、縦軸が検出角です。2つのスポットがあるということは、翅に垂直に光を入れたときより、少し斜めに入れた時の方が反射光が強いことを意味しています。

 実はこの図がすべての測定結果を如実に表わしています。今、入射角を&theta、検出角を&phiとしましょう。従って、横軸が&theta、縦軸が&phiで、それぞれ中心が0度となっています。検出器回転測定では&thetaを0度にして、&phiを-90度から90度まで変えた測定ですから、この図では&phi軸に沿って中心を縦に貫く直線上を測定したものです。モルフォチョウの特徴が2つのスポットで表わされているとしますと、2つの山の裾をかすめて通る測定を行ったことになります。一方、&theta -2&theta測定では&theta =-&phiの条件ですので、中心を通って左上がりで斜め45度に傾いた直線上の測定になります。従って、2つの山の間の峠を通っただけで、2つの山を見なかったことになります。これに対して、試料回転測定では、&theta =&phiの直線ですので、中心を通って右上がりの斜め45度に傾いた直線上の測定です。つまり、2つの山の頂上を通る測定をしたことになります。つまり、試料回転測定では2つのスポットがきれいに見えた理由になります。

 このことは何を意味しているでしょう。&theta =&phiの直線は入射角と検出角が等しい測定です。その測定で2つのスポットが見えたことは、光は翅に斜めに光を入れたときに、戻ってくるということを意味しています。つまり逆反射が起きるということです。この事実は、今回の測定を行って初めて分かりました。逆反射はどうして起きる必要があるのでしょうか。真実は分かりませんが、逆反射は生物が色づけるときに大変役に立っているのではないかと思います。多層膜のように正反射方向で発色する場合ですと、いろいろな光が混じって白っぽくなってしまうことが良くあります。例えば、黒い礼服でも光が正反射する方向でみると白っぽくなってしまいます。逆反射はこのような余分の光をカットして、色をはっきりと見せることができる仕組みだと考えています。
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