池田市北部のチョウ−1997〜1998年の記録−


きべりはむし 26(2) 14 (1998)より

1.はじめに
 筆者は 1996 年から 1997 年にかけて川西市黒川地域のチョウとトンボの調査を行ったが、引き続いて筆者の住まいの近くである池田市東山町、伏尾町周辺を歩いてチョウとトンボを調べてみた。今回は黒川地域の時とは異なり、散歩代わりに漫然と歩いたためそれほど網羅的、定量的ではないが、黒川地域や他の地域と比較する上では興味ある結果が得られたのではないかと思い報告したい。

2.観察地域の特徴と調査方法
 観察方法はほぼ決まったコースをゆっくり歩き、採集もしくは目視により種の同定、および、おおよその個体数の調査を行った。頻度はほぼ週1回のペースで1997 年はシーズン中に 27 回、1998年は36回、1999 年は 10 月中旬までに 25回の観察を行った。
 今回歩いた場所は、池田市北部の五月山の西側斜面にあたる東山町と伏尾町にまたがる地域である。この地域は古くより植木の町として知られ、全国から集めてきた木を育てて再び運び出すという植木の集散地であった。そのため、山の中腹までは植栽で占められており、手入れは良く行き届いている。山道沿いには炭焼きのための台場クヌギがまだ点在しており、そのため古くより昆虫採集地としても知られていた。近年、そのクヌギが次々と伐られ、また、周辺に伏尾台、バードヒルズなどの住宅地もできてきたため、環境も急速に変わりつつあるのではないかと思われる。
 山の中腹より下には畑や田圃が広がり、道路を挟んで猪名川の支流である余野川が流れている。このあたりの風景は黒川地域と同様に里山風景が見られるが、黒川よりも開けた感じがする。全般にお花畑になりうるような広い環境には乏しく、逆に林の周辺には日陰性の種類が多く見られている。

3.観察結果の全般的印象
 この1年半ほどに見られたチョウは 8 科56 種であった。池田市で調査を続けておられる下山孝一氏のホームページによると、池田市ではこれまで8 科 83 種(偶産、絶滅種と思われるもの 10 種ほどを含む)が見られている。今回の調査結果はこれに比べるとかなり少ないが、最近の傾向を知る上では参考になるのではないかと思われる。黒川地域と比較すると、山地性のヒョウモン類、ゼフィルス類、スミナガシ、サカハチチョウ、アオバセセリなどが見られないのが目に付き、逆に、最近北上傾向の著しいナガサキアゲハが多く見られたことなどが注目される。月別の観察数を表に示す。

4.目録(調査期間以降のデータも含む)65種

<アゲハチョウ科>
1. キアゲハ
2. アゲハ(29.IV.1998 1ex. 東山)
3. クロアゲハ
4. オナガアゲハ(3.V.1998 1♂ 東山)
5. ナガサキアゲハ (13.IX.1997 1♀, 30.VIII.1998 1♂ 東山)
 最近、急速に進出してきた南方系のチョウで、池田市北部でも定着しているようだ。
6. モンキアゲハ(10.V.1997 1♀ 東山)
7. カラスアゲハ(4.V.1998 1♀ 東山)
8. アオスジアゲハ
9. ジャコウアゲハ(15.VIII.2000 1♀,4.V.2001 1♂ 東山)
 2000年は池田市のあちこちでジャコウアゲハが見られました。
10.ミヤマカラスアゲハ(20.VI.1999 1♀ 伏尾台)

<シロチョウ科>
1. キチョウ(24.VIII.1997 1♀, 13.IX.1997 1♂1♀ 東山)
2. モンシロチョウ(18.IV.1998 1♂ 東山)
3. モンキチョウ
4. ツマキチョウ(15.IV.1995 1♂ 東山)
5. スジグロシロチョウ(19.IV.1997 1♀, 7.VI.1997 1♀ 東山)
6. エゾスジグロシロチョウ(19.IV.1997 1♂, 13.IX.1997 1♂ 東山)
 山道沿いで多くはないが見ることができた。
7. スジボソヤマキチョウ

<シジミチョウ科>
1. ウラギンシジミ
2. ムラサキシジミ
3. アカシジミ(17.V.1998 1ex., 22.V.1998 1ex. 2.VI.2001 1ex. 東山)
4. トラフシジミ
5. ベニシジミ
6. ウラナミシジミ
7. ヤマトシジミ(19.IV.1997 1♂, 2.XI.1997 1♂, 18.IV.1998 1♀ 東山)
8. ツバメシジミ(6.VI.1998 1♀ 東山)
9. ルリシジミ(5.IV.1998 1♂ 東山)
10. コツバメ
11. ミズイロオナガシジミ(16.VII.2000 1ex. 2.VI.2001 1ex. 東山)
12. ウラナミアカシジミ(2.VI.2001 2ex. 東山)

<テングチョウ科>
1. テングチョウ

<マダラチョウ科>
1. アサギマダラ(10.X.1997 1♂ 東山)

<タテハチョウ科>
1. メスグロヒョウモン(17.V.1998 1♂ 東山)
2. ツマグロヒョウモン(10.V.1997 1♂ 東山)
3. ミドリヒョウモン(30.IX.1999 1♂ 東山)
4. イチモンジチョウ
5. アサマイチモンジ(17.V.1997 1ex. 東山)
6. ミスジチョウ(8.VI.2001, 8.VI.2002 東山)
7. コミスジ
8. ホシミスジ
9. キタテハ
10. ヒオドシチョウ(14.VI.1997, 2.VI.2002 東山)
11. アカタテハ
12. ヒメアカタテハ(19.IV.1997 1ex. 東山)
13. ルリタテハ(5.X.1997 1ex. 東山)
14. コムラサキ(9.V.1998 1♂ 東山)
 民家の近くで1頭得られたが、数は少ないようだ。
15. ゴマダラチョウ(16.VIII.1997 1ex., 20.IX.1997 1ex. 東山)
16. オオムラサキ(5.VII.1997 1♀ 東山)
 AとEのクヌギに止まっている姿を何回か見かけた。数は多くない。

<ジャノメチョウ科>
1. ヒメウラナミジャノメ
2. ジャノメチョウ
3. ヒカゲチョウ
4. クロヒカゲ(20.VII.1997 1♂ 東山)
5. クロヒカゲモドキ(14.VIII.1997 1♀, 17.VII.1999, 12.IX.1999 1♀ 東山)
 草原沿いの山道で飛来したものを採集したが、9月中旬の夕方に多くの個体が見られた。
6. サトキマダラヒカゲ
7. ヒメジャノメ
8. コジャノメ
9. クロコノマチョウ(14.IV.1999 伏尾台)
10. ウスイロコノマチョウ(17.IX.2002 伏尾台)

<セセリチョウ科>
1. ダイミョウセセリ
2. ミヤマセセリ
3. ホソバセセリ(5.VII.1997 1♂, 20.VII.1997 1♀, 20.VI.1998 1♂ 東山)
 Fなど少し暗い環境で見られた。数は多くない。
4. コチャバネセセリ
5. キマダラセセリ(16.VIII.1997 1♂ 東山)
6. オオチャバネセセリ
7. チャバネセセリ(5.X.1996 1♂, 14.VIII.1997 1♂, 26.IV.1998 1♂ 東山)
8. イチモンジセセリ

注:日付のないものは目視または採集確認後に放ったもの。なお、( )内は標本のデータを示す。 inserted by FC2 system